陰のある人には独特な魅力がある。例えば、一見さわやかな人がふとした瞬間に見せる陰。全体的に陰っていてはダメ。瞬間的に垣間見える陰がいいのである。それはいわゆる「魅力あるギャップ」のひとつでもある。
今回春画展を観に行ったのだが、春画から観えた陰はとても美しかった。それと同時にとてもエロかった。
春画展は18禁である。観に行く前は春画についてあまり知らなかったので、「なんで18禁なの?なんでもかんでも規制しちゃうんだ…」と思っていたが、見始めてからは「うん。これが18禁なのはしかたない」と思った。
そもそも春画とは何か。ざっくりいうと「性風俗を扱った浮世絵」である。
「性風俗っていっても所詮浮世絵でしょ?」とお思いだろう。私もそう思っていた。しかしそれは予想以上に過激だった。男女の営みはもちろん、女同士の営み、そして男1人×女6人の営みや、女×タコの営みまである。しかもその男女の体は下半身の細部まで描かれている(浮世絵なので当然モザイクはない)。
そして観ていて思ったのは、やはり日本人は「陰の表現がうまい」ということ。日本文学の名作しかり、邦画ホラーしかり、暗くて独特な凄味のある作品が多いが、陰の代表的なものともいえる性風俗の表現も、やはりとても巧みだった。
例えば西洋の絵画だと、性風俗の作品はあからさまな表現のものが多く、陰があまり感じられず陽が強い。そして肉体的な美しさを追及して描かれているような作品が多い。
しかし春画は、ひっそりとした表現のものが多く、陰があり、心理描写を追及して描かれているような作品が多い印象を受けた。
特に春画を観てそう感じた部分としては「目」である。描かれている人の目は、すべて日本画的な細い目をしている。それらは一見、無感情のように見える。しかし人やシチュエーションによっては、微妙に垂れていたり微妙に微笑んでいたりする。その微妙なニュアンスを観て私は想像力をかきたてられてしまい、作品の中の人の心情を想像せずにはいられなくなってしまったのである。
私が観に行った日は平日。混雑を避けるために開館30分前くらいに会場に到着したが、すでに20人くらいの列ができていた。観覧している人の年齢層は結構高かった。私の体感では、60歳以上が4割、40-50歳代が4割、20-30歳代が2割、男女比は半々、という感じだった。現に私が開館を待っているとき、50-60歳くらいのおじさまに「若いのに観にきたんだ?めずらしい。日本の文化を感じなきゃね~」なんて声をかけられた。それくらい若い人は少なかった。
そして私は春画を見ている最中、会場を見渡しながら考えた。
春画を観ながら微笑みを浮かべ、長いひげをいじる亀仙人のようなおじさま。
無表情で春画の前で立ち止まる、酸いも甘いも知り尽くしてそうなおばさま。
真剣な眼差しで春画を見つめる、若い女の子。
そして数々の春画を観るために、開館前から入口に並んで待機をする紳士淑女のみなさま。
みんな、なんてエッチなんだと。
もはや、スーツ姿の真面目そうなスタッフの男性たちが数々の春画を案内している、というこの会場のシチュエーションすら、いやらしく感じた。
おまけに春画展の表題の春画はこれである。
あれだけ過激な作品がある中でこれをセレクトするとは。逆に卑猥である。
しかもこの春画展、主催者はあの元首相の細川護熙さんじゃないか!
日本はなんてエッチなんだ!日本の未来はとても明るいじゃないか!
そんなことを考えながら私は家路についたのであった。
ということで。
陰のある人も、陰のある作品も、とても魅力的。という話でしたー。
それにしても、性風俗を扱った作品のみの美術展って初めて行ったけど、とても新鮮だったなぁ。
春画展
<期間>
2015/09/19(土)~2015/12/23(水)
<会場>
永青文庫
東京都文京区目白台1-1-1
<開館時間>
9:30~20:00
日曜日は18時まで
※入場は閉館の30分前まで
<休館日>
毎週月曜日(祝日の場合は開館)
※但し、12/21は特別開館
<入場料>
一般 ¥1500
※高齢者、学生、団体の割引はございません。
※18歳未満の入館は禁止。
<URL>
http://www.eiseibunko.com/shunga/