仮面ライダーの世界観に近いニコニコ宣言

川上量生著「ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち」を読んだ。

この本には、カドカワ株式会社会長に就任した川上量生さんの生き方や働き方の哲学について書かれている。

実業家の本によくありそうな、前に一歩を踏み出せない人の背中を押すタイプの本かと思ったら、全然そういうタイプの本ではなかった。むしろ、川上さんが冷静かつ辛辣に見ている現実、またその先に見える未来について語られている。ニコニコ動画を運営していく目標はニコニコ宣言(http://info.nicovideo.jp/base/declaration.html)に書いてあるのだが、現実の先に見える未来を踏まえた上でニコニコ宣言を作ったことについても、踏み込んで語られている。

おもしろかった川上さんの話の概要を私なりにまとめてざっくりメモ。

・KADOKAWAとドワンゴが経営統合されてKADOKAWA・DOWANGO(現・カドカワ)の会長になることについて、複雑な心境だった。

・本質的に東大生は頭が悪いと思っていた。例えれば競馬でよく走る馬と一緒。よく走る馬は人間に脅されたりして、自分の体の限界を超えてまで一生懸命走る。だから基本的にバカ。一方東大生は、親や世間の言うことを聞いて必至で勉強しちゃった。やっぱりそれはどこか頭の悪い部分を持っている、ということだと思う。
でも最近、東大出身の人は頭のいい人が多いと気づいて驚いた。これまでは東大出身の人との付き合いがなかったからわからなかった。

・「夢を持って生きろ」という言説について超批判的。
「容易には実現できず、長い間継続的に実現したいと願っていること」が夢の定義。だから今の生活に満足している人は夢を持たない。ということは、夢を持っている時点で不幸な人間。

・テクノロジーやコンピュータが進化すると人間の居場所はなくなる。基本的にこの問題は解決できない。人類は滅びると思っているので、むしろ滅び方をどうするかという問題。

・歴史の決定権は人間からシステムに移る。今の社会システムは生命体のように自律進化をとげていて、その進化を人間は止めることができない。

・無駄なことは嫌いだが、無駄こそが人間の本質。合理的なものをよしとしたら、システムが正しくて人間個人のわがままは抑圧されても仕方がない、そんなものはどうでもいい、という価値観になる。論理は突き詰めると自分じゃなくていいもの。賢い人が2人いて論理を突き詰めていくと同じ帰結に達する。どっちが考えても一緒。つまり、非論理的な部分にしか最終的な個性は残らない。

・ニコニコ宣言に書いたことは仮面ライダーの世界観に近い。怪物たちと戦う仮面ライダーは、もともとは怪物たちに捕えられてバッタ人間に改造された存在。つまり、怪物のテクノロジーを使って怪物と戦っている。テクノロジーを使って人間性を追求するというのはそういうこと。テクノロジーを使って人間性を追求するということが、大きな流れになると思っている。システムと人間性の対立は、今後の歴史の軸になっていく。

この中でも私が特に印象的だったのは、川上さんが自身のことを論理的な人間だと言いつつ、非論理的なことの重要性を語っていたこと。物事を論理的に考えがちな人は、非論理的な考えや感情的な考えについて否定的な印象があるが、川上さんはそうではなかった。

総じてこの本をとおして、川上さん独自のユニークな考え方や発想に触れることができ、様々な気づきを得ることができた。